基盤技術

がんや免疫疾患など、対象疾患の目印となる抗原に結合する抗体をどのように取得するかが、技術のポイントとなります。
当社は、標的の特性に合わせて、ファージディスプレイ法とハイブリドーマ法とを柔軟に使い分け、さらに当社独自の抗体スクリーニング手法を組み合わせることで機能性の高い抗体を取得しております。また、新たなスクリーニング技術として、シングルBセルスクリーニング法も活用しております。

ファージディスプレイ法

動物を使うことなく、試験管の中で抗体を作成する方法です。
自己抗原を含む生物および非生物に由来する標的や、生物にとって毒性の高い物質に対する抗体など、ハイブリドーマ法では取得が難しいつユニークな抗体を得ることが可能です。

ヒト抗体ライブラリ

当社のヒト抗体ライブラリは、特に多様性に優れており、様々な抗原に対する抗体が含まれていることが期待できます。

ライブラリに含まれる抗体の種類や性質が優れているほど、良い抗体を単離できる確率が上がるため、ライブラリの作製はきわめて重要な技術要素です。当社は独自の手法でヒトナイーブ(未成熟)B細胞から1,000億種類の抗体をライブラリとして構築し、様々な抗原に対する優れた抗体を作出してきました。
こうした技術と知見を活かし、今後も新しいライブラリの作製や、目当ての抗体を効率的に単離するスクリーニング方法の開発を手掛けてまいります。

ラクダ抗体ライブラリ

ラクダ抗体(VHH抗体)はヒトなどの抗体とは異なり、単鎖抗体と呼ばれる独特な構造を持っています。サイズが小さいため生産が容易で、熱に対しても高い安定性を持つという特性があります。このため、医薬品・研究用試薬としてだけでなく、フィルターその他の工業製品等で抗原を捕らえる材料として、幅広い用途での活用が期待されています。

当社はこのような優れた性質を持つVHH抗体ライブラリをラクダ免疫細胞から作製し、抗体の多様なニーズに応えるための開発を行っております。

抗体スクリーニング技術(ICOS法)

抗体の取得には抗原・抗体反応を活用するため、まずは標的となる抗原を準備します。
標的抗原である蛋白質は細胞膜の上に存在していますが、折り畳まれた複雑な構造をしています。
一方、抗体医薬品の開発の際には細胞膜から取り出した「精製蛋白質」と呼ばれる材料が使われることが一般的です。しかしながら精製蛋白質では、細胞膜上にあったときと同じ複雑な形を再現することはきわめて困難です。
そこで細胞自体を材料として使うことが考えられましたが、細胞をそのまま使用すると抗原・抗体反応とは異なる非特異的反応(吸着)が起こり、不要な抗体が多数混じってしまいます。ICOS法はこれを解決するために考案した方法で、細胞を使った抗体のスクリーニングの際に、非特異的な吸着を除く効果があります。これによって、細胞膜上に存在する蛋白質の立体構造を反映した親和性の高い抗体のみを上手く取り出すことが可能となりました。
当社はさらに、細胞膜上の蛋白質に限らず、通常免疫法では取得が困難な標的に対しても最適なスクリーニング技術も開発しており、蛋白質はもちろん低分子など、さまざまな標的に対する抗体を効率的に取得することができます。

標的探索(表現型解析)

抗体ライブラリを用いて疾患に関連した細胞(例:がん細胞)をスクリーニングすることで、その細胞膜上の多様な標的に対する抗体配列が濃縮されます。ここで得られた抗体配列には診断や治療に有用なものが多数含まれており、任意の方法で抽出することで特徴的な抗体(例:がん特異的抗体)を選定し、標的分子を同定することで有用な候補抗体として開発が進められます。

これまでのmRNA発現解析手法とは異なり、表現型解析は細胞の状態を正確に反映している点が優れており、新規の標的を探索する方法として期待されています。

ハイブリドーマ法

ハイブリドーマ法は、特定の抗原とだけ結合する抗体(モノクローナル抗体)を生産する細胞を作製する汎用的な技術です。動物に免疫を施すと、B細胞と呼ばれる免疫細胞は免疫された抗原(通常は蛋白質)と結合する抗体を生産するようになります。
しかしB細胞は生物学的に不安定で長期間培養することが難しく、抗体を大量に生産することが困難でした。そこで、ミエローマ細胞と呼ばれる、無制限に増殖できる不死化されたがん細胞をB細胞と融合して、両者の特性を兼ね備えた融合細胞(ハイブリドーマ)を創り出す技術が考案されました。
ハイブリドーマは無限に増殖しながら抗体を生産することができるため、それまで困難であったモノクローナル抗体の大量生産が可能となりました。

抗体デザイン

ハイブリドーマから得られた抗体配列や、ファージ抗体ライブラリによって取得された抗体配列は、抗体工学によってヒト化・キメラ化(ハイブリドーマ法の場合)、アイソタイプ変換、Fab型、scFv型など、多種多様な種類の抗体にデザインできます。また、CAR-Tへの応用も可能です。様々なフォーマットへ変換することで、医療ニーズに応じた多彩なモダリティに対応します。

シングルBセルスクリーニング法

シングルBセルスクリーニング法は、特定の抗原に対してのみ反応する抗体を生産するB細胞を単離し、モノクローナル抗体を取得する方法です。
この方法は極めてまれな抗体産生細胞を高精度かつ高効率で特定することができるため、とても高い特異性を持つ抗体が取得できます。また、得られた多数のB細胞から抗体遺伝子を取得することでスループット高く多様な抗体を得ることが可能です。得られた抗体遺伝子を使って抗体産生細胞を作ることができるため、ハイブリドーマの作製が難しい動物種のモノクローナル抗体でも生産することが可能です。

用語解説

ラクダ抗体 ラクダに由来する抗体。ヒトと異なり、H鎖のみの単鎖抗体が存在しますが、単鎖抗体は、分子量が小さい、物性的に安定であるなど、ヒト抗体とは異なる利点を持ちます。
ナイーブ ナイーブとは未だ特定の抗原に対して刺激を受けていない状態。刺激をうけると特定の抗原に対して特異性と親和性を向上させていきます。
特異性 抗体が特定の抗原にのみ結合して他とは結合しない性質。