ペルセウス通信

成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)に関する論文が発表されました

2025年03月07日

みなさんこんにちは。社長の横川です。
先日、PPMX-T003(以下T003)のATLLへの治療応用に関する基礎研究論文が発表されました。この研究は、日本ではかつて九州を中心に課題となっていたATLLの研究を進めてきた宮崎大学の森下特任教授による成果です。森下先生の基礎研究を元に、当社はT003で真性多血症(PV)を対象とする前臨床・臨床試験を進めました。今回の論文報告では、抗TfR1抗体であるT003がATLL細胞を殺すメカニズムが、フェロトーシスという、細胞自体にプログラムされた細胞死であることが明らかになりました。

T003がATLL細胞に結合すると、鉄を運搬するトランスフェリンの細胞内への取り込みが阻害されます。すると、細胞内の鉄が枯渇するため、それを補うためにフェリチン(細胞内の鉄を貯蔵するたんぱく質)の分解が起こります。これは細胞が生存するための機能ですが、ATLLでは、フェリチンの分解によって細胞内に放出される遊離鉄が、がん細胞の生命維持を破綻させ、フェロトーシスにより細胞死に至ることを発見しました。

当社はこれまでに複数の大学と共同研究を行い、T003が細胞死あるいは細胞増殖抑制を引き起こすメカニズムを解明しようとしております。基礎研究と呼ばれる分野で、この画期的抗体T003の全容を解明するための非常に重要な分野です。作用機序の研究は当初の予測より複雑で、対象の疾患細胞ごとに異なるメカニズムがあると想定され、一朝一夕に結論が出るものではないことがわかってきました。あらためて人体生命の世界の計り知れない奥深さを実感しながら、日々研究を続けております。

皆様におかれましては、引き続き当社へのご理解・ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

 少し専門的になりますが、フェロトーシスは、この10年の細胞死に関する研究で発見された12種類の制御性細胞死の1つで、最も新しいものの1つです。細胞が死ぬ過程は、細胞機能が低下して壊死に至るネクロ―シスと、細胞に備わった機能によって積極的に死に至る生理機能としてのプログラム細胞死(Programmed cell death:制御された細胞死)に大別されます。これは細胞の中身がむやみに漏出すると炎症がひき起こされるため、生体に障害を与えないためのメカニズムです。このプログラム細胞死は、周囲への影響を抑えるメカニズムとして研究が進んできました。細胞死の研究はこの10年で格段の進歩を遂げましたが、今後もさらなる解明が進むことが期待されます。