皆さんこんにちは。ペルセウスプロテオミクス代表取締役社長の横川です。
2月15日付日経新聞朝刊の『進化するがん治療② 抗がん剤技術「ADC」新薬の実力 世界大手、開発競う』という記事で、ADCの治療効果の実例等が紹介されています。ADC(Antibody Drug Conjugate)とは、がん細胞等に結合する抗体と抗がん剤等の低分子薬物とを組み合わせた「抗体薬物複合体」のことです。抗体によってがん細胞に運ばれた低分子薬物が、がん細胞を殺傷する仕組みです。
低分子の抗がん剤には強い殺細胞作用があり、がん細胞を殺傷しますが、全身に広く浸透してしまうため、正常な細胞・組織への副作用が強く、投与量を十分に増やせない傾向があります。また、分子標的薬と呼ばれる、特定のがん細胞のみに作用する低分子抗がん剤も開発されていますが、副作用が全くないとまでは言い切れません。
当社が取り組んでいる抗体医薬品は、がん細胞への集積性に優れており、広範な正常組織まで浸透する低分子抗がん剤に比べ、がんを選択的に傷害することで副作用を少なくできます。何と言っても抗体医薬品は生きた細胞が作る薬です。毒性が強いと生産過程で細胞自身が死んでしまうので、きわめて安全性が高いと言えます。一方で安全性が高いということは、がん細胞を殺傷する力も相対的に低分子医薬品よりも緩やかであることを意味しています。
こうした中で登場したADCは、抗体と低分子抗がん剤それぞれのメリットを活かした理想的な医薬品です。がんに選択的に結合する抗体に低分子薬物を結合し、殺傷力を増強する開発自体はかなり前から行われていましたが、低分子や抗体単独の抗がん剤に比べて、圧倒的に優れた効果を持つまでには至っていませんでした。ところが、2020年に発売された、第一三共社のADC「エンハーツ」は、既存の薬剤よりもはるかに優れた治療効果を示し、医薬品業界が活気づいています。今回の記事の通り、今後、抗がん剤分野でADCは大きく成長すると予想されています。
当社も
PPMX-T004というADCの開発を進めています。2015年に富士フイルム社に導出したものですが、同社の事業方針の転換により、T002とともに昨年ライセンスバックされました。当社にとっては、新たな開発を自由に行えるビッグチャンスです。T004は、様々ながん細胞に選択的に発現しているCDH3という抗原を標的としているため、安全性が期待できるとともに、対象とするがんの種類が多く、エンハーツ同様に抗がん剤として非常に魅力的です。
ADCの登場以来、各社で多くの新たな低分子抗がん剤やリンカー(抗体と抗がん剤を結合する分子)の開発が進んでいます。当社は、最新のリンカーや低分子抗がん剤を手掛ける企業とタッグを組み、主力の研究者を投入してT004の抗がん効果を高める開発を進めています。今回の記事によると、英国エバリュエート社は2028年のエンハーツの売上高を約8,000億円と予想しています。今進めているT004の改良品は、個人的にはブロックバスター(年間売上が10億ドルを超える薬剤)になる可能性もあると思っています。数か月後には動物実験の結果が得られますので、今から楽しみです。